臨床発達心理実践研究2025 第20巻 第1号 5-10
子どもたちに対する日本語教育と特別支援教育の交差を目指して
――教員に求められる資質・能力とアセスメントのあり方の検討から
池上 摩希子
早稲田大学日本語教育研究科
日本語教育が必要な児童生徒が抱える問題に対して,「日本語の問題か,発達の問題か」という問いがなされるが,日本語教育と特別支援教育を二者択一的に捉えても問題解決にはつながらないのではないか。日本語教育の立場から,日本語教育と特別支援教育を交差させること,教育支援担当者同士での連携が重要であることを論じていく。両領域の教員に求められる資質・能力とアセスメントの在り方を確認し,理念のみならず,実践の文脈での交差が必要であることを主張した。最後に,複層的,複合的な支援が必要な子どもたちに対しては,多様な立場と専門性を持ち合わせた複数の職種の専門家によって構成される体制で支援をしていく必要がある,と述べ,よりよい支援に向けた課題と展望とした。
【キー・ワード】日本語教育,特別支援教育,教員の資質・能力,アセスメント,支援体制
臨床発達心理実践研究2025 第20巻 第1号 11-17
外国にルーツのある子どものことばの力の評価
――複数のことばと思考の発達の視点から
櫻井 千穂
大阪大学大学院人文学研究科
外国にルーツのある子どものことばの力をいかに評価するかは,学習機会の公正性や社会参加の保障に関わる重要な課題である。本稿では,従来,複数言語環境に育つ子どものことばの力の評価において見落とされがちであった,年齢に応じた認知的発達や複数言語にまたがる力に着目し,その理論的背景と国際的・国内的な議論の動向を整理する。さらに,こうした課題に応答する形で,文部科学省により2025年に刊行された新たな評価の枠組みである「ことばの力のものさし」と,それと連動して改訂された「対話型アセスメントDLA」の意義を概説し,複数言語環境に育つ子ども理解の重要性を考察する。最後に,評価の権威性にも触れ,今後の課題と展望を示す。
【キー・ワード】ことばの力の評価, 「ことばの力のものさし」,「対話型アセスメントDLA」
臨床発達心理実践研究2025 第20巻 第1号 18-24
外国人児童生徒の教育的ニーズへの対応
――群馬県伊勢崎市の取り組みの紹介と教員のインタビュー調査からの考察
古川 敦子
津田塾大学
本稿では,群馬県伊勢崎市を事例として,外国人児童生徒の様々な教育ニーズに対しどのように対応しているか,また支援の充実に何が求められているかについて論じる。伊勢崎市では有志の教員グループ「日本語教育研究班」が中心となって,外国人児童生徒の諸課題に取り組み,その中で在籍学級の教員や家庭,地域との連携を目指してきた。最近は外国人児童生徒の発達支援も新たな教育課題となっている。そこで発達支援と日本語指導に関して教員2 名にインタビュー調査をした結果,今後必要なのは(1)連携を発達支援の分野にも広げること,(2)有用性が十分に発揮できるような関係性をもつ連携のあり方を問うことの2点であることが示唆された。
【キー・ワード】日本語教育研究班,日本語指導,特別支援教育,連携のあり方
臨床発達心理実践研究2025 第20巻 第1号 25-30
複数の言語環境で育つ子どもの学びの環境づくりと体験活動を通した日本語指導
――公立小学校での取り出し指導の事例から
米澤 千昌
大阪教育大学
日本国内では公立学校に通う外国人児童生徒の数が増加する中(文部科学省,2024a),近年,発達障害(の疑い)がある外国にルーツをもつ児童生徒への日本語指導が課題として取り上げられることが増えてきた。本稿では,ある公立小学校で行われた取り出しによる日本語指導の実践について,そこで行われていた支援の特徴,および子どもの変化から,外国にルーツをもつ児童生徒の成長や発達を支える日本語指導のあり方について検討した。その結果,外国にルーツをもつ児童生徒が持っている力や特徴を捉え,学校全体で学びの環境を整備し,その中で日本語を道具として,成長や学びを支える活動を行う重要性が示された。
【キー・ワード】外国にルーツをもつ児童生徒,日本語指導,学びの環境づくり,全人的発達,体験活動
臨床発達心理実践研究2025 第20巻 第1号 31-37
適切なアセスメントによる日本語指導と児童の成長を目指して
――浜松市A小学校における取り組みから
古橋 水無
浜松市公立小学校,元浜松市教育委員会
浜松市は外国にルーツを持つ児童生徒が多く,その数は年々増加している。そして,日本語指導が必要な児童生徒(日本生まれも含む)も増加傾向にある。そこで大きな課題となっているのが,「学習言語の獲得」である。そんな中,外国にルーツを持つ児童生徒の学習が定着しないことに発達障害を疑う事例が増えている。学習が身につかないことで,学校が特別支援学級(浜松では発達支援学級)を勧める事例が多くなっている。筆者が浜松市教育委員会の担当部署に在籍当時,学校現場の外国にルーツを持つ児童生徒の学習不振の事例に携わり,指導側のアセスメントや理解の不足により発達障害を疑われたり,適切な対応がとられないまま,児童生徒のやる気と大切な学習の時間が失われたりしている事例を多く見てきた。対象の児童生徒が置かれている環境やそれまでの成育歴から支援を考えていくことが指導者として大切だと気付いた。そして,もう少し,クラスで声掛けをしたり,少人数の取り出しで丁寧に係わっていったりすれば,学習内容の定着が図れるのではないかと考えた。
【キー・ワード】外国にルーツを持つ児童生徒,特別の教育課程,取り出し指導,日本語と教科の統合学習,アセスメント
臨床発達心理実践研究2025 第20巻 第1号 38-44
横浜市における外国につながる児童生徒の現状と指導・支援
――外国につながる児童生徒が安心して学校生活を送ることができるために
横溝 亮
横浜市教育委員会事務局
横浜市では,外国につながる児童生徒が約1万6千人在籍し,114か国に及ぶ多様な背景を持つ子どもたちが市立小中義務教育学校で学んでいる。日本語指導が必要な児童生徒は増加の一途をたどり,市では国際教室や日本語支援拠点施設「ひまわり」,母語支援ボランティアなど,当該児童生徒が安心して学校生活を送ることができるよう,様々な施策を展開している。国際教室では,日本語指導に加え,在籍学級や家庭,地域との連携を通じて児童生徒の適応支援に大きく貢献している。また,初期日本語習得と学校生活への適応を目的とした「ひまわり」の役割も重要である。今後は,ICTの活用や,母語を活かしたアセスメント体制の整備など,より包括的な支援の充実が求められている。
【キー・ワード】横浜市,外国人児童生徒の受け入れ,初期日本語指導体制,国際教室
臨床発達心理実践研究2025 第20巻 第1号 45-52
外国にルーツのある子どもの保育と発達支援
――X県Y市の園におけるA児と保育者との関わりから
倉畑 萌 別府 悦子
中部学院大学短期大学部 京都橘大学発達教育学部
在留外国人の数は増加の一途をたどり,家族が帯同することにより,子育てをしながら日本に長期にわたり滞在することも増えている。その中で,外国にルーツのある子どもたちの保育や発達支援を充実させていくことが喫緊の課題になっているが,発達支援の課題が見極めにくいこともある。そこで,外国にルーツのある子どもの多文化共生保育を先駆的に行っている保育園での実例から,その実態と課題を明らかにすることを目的として実践検討を行った。園の運営者へのインタビューから園の概要や理念を把握し,保育現場での観察から「発達支援を要する子ども」と保育者との関わりについてエピソードを基に検討を行った。その結果,多文化共生を可能にする環境作りとともに,発達支援が必要かつ外国にルーツのある子どもたちにとって,保育者が彼らの意図を理解する姿勢や思いを共有する「共感的理解」の必要性が示された。
【キー・ワード】多文化共生保育,インクルーシブ保育,発達支援,共感的理解
臨床発達心理実践研究2025 第20巻 第1号 53-59
外国につながる親子が抱える発達的課題及び支援の在り方について
――インタビュー及び相談会内容の分析とワークショップによる実践を通して
米田 奈緒子 印南 春香
一般社団法人家庭教育センターFACE 一般社団法人家庭教育センターFACE
外国につながる子どもの数は増え続けているが,その支援については,課題が散在している。本研究では,3つの研究を行った。第一に大規模調査の中から地域支援者のインタビューの集約を行い,支援にあたる側が,どこまで子どもの知的な課題なのか,それとも日本語の未習得なのか,または家庭環境要因や文化子育て観の違いかを見立てることが難しいと感じていることが明らかになった。子どもの発達・若者の心の相談では,内容の分類を行って,横断的に人間関係や家族に大きな悩みを抱えていることが分かった。第三にそこから浮かび上がった若者の居場所の創設として,実践ワークショップを開催し,自尊感情の向上を試みた。
【キー・ワード】外国につながる親子,発達支援,メンタルヘルス,自尊感情
臨床発達心理実践研究2025 第20巻 第1号 60-71
通所施設における最重度知的障害者の奇声に対する音楽動画視聴の効果
佐々木 かすみ 金 晶 臼井 潤記 野呂 文行
筑波大学 筑波大学 千葉県発達障害者支援センター 筑波大学
本研究は生活介護事業所に通所する最重度知的障害者の「奇声」という行動問題に対し,直接観察,動機づけ評定尺度(MAS)による機能的アセスメントを実施し,他に従事している活動がない状況における「奇声」は,「感覚」刺激の強化によって維持されると特定した。そこで「感覚」刺激の代替として,タブレットとヘッドホンを用いた音楽動画視聴を導入し,「感覚」機能に対する音楽の活用についての効果を検討した。その結果,施設内での奇声の減少は一定の効果を示し,社会的妥当性の評価も肯定的であった。このことから,感覚機能を有する行動問題(奇声)に対して,音楽を用いた支援は効果があると考えられた。
【キー・ワード】最重度知的障害者,機能的アセスメント,音楽タブレット,QOL