臨床発達心理実践研究2024 第19巻 第1号 5-11

知的・発達障害者に対する包括的性教育(CSE)推進に向けての指針
――4つの視点から,教育を担う者のまなざしを問う

門下 祐子
京都教育大学 総合教育臨床センター

本研究は知的・発達障害者に対する包括的性教育(以下,CSE)を推進していくうえでの指針の提示を目的とし,先行研究や一般書による知見から,1)制度・政策,2)優生思想,3)ジェンダー・性の多様性,4)性教育の担い手,の4視点での整理を試みた。その結果,シスジェンダーや異性愛を前提とした性教育や障害児の子育てにおける母親規範などの課題が明らかとなった。真にジェンダー平等と多様性を基盤としたCSEを推進していくためには教育を担う者が自らのバイアスについて自覚的になり,知的・発達障害者の「性」に対するまなざしを問い直す必要がある。その点をふまえたうえでトライアングル・アプローチにもとづいたCSE のあり方を提唱する。

【キー・ワード】知的障害,発達障害,包括的性教育,ジェンダー,トライアングル・アプローチ


臨床発達心理実践研究2024 第19巻 第1号 12-18

知的障害・発達障害のある児童への性教育の取り組みと課題

門脇 絵美
横浜市立矢部小学校

性教育は,包括的性教育として扱うことが望まれているが,現在の学習指導要領上では十分とは言えない。また,知的障害や発達障害のある児童生徒にとって性教育のニーズは高いが,教育現場においては,実施の仕方についてわからないといった声も多く聞く。そこで,本研究は公立小学校特別支援学級において実践した2つの性教育を通して,知的障害や発達障害のある児童生徒への性教育の内容や方法を検討することを目的とした。すなわち,文部科学省が推進している「生命の安全教育」をベースとしたものと体育科保健領域の内容をベースとした実践報告である。それらの実践から,学習した内容が児童と教員の共通言語となり日常の指導での深まりに繫がったこと,保護者への啓発になったこと,性について肯定的に捉えられる児童が増えたことが成果としてあげられた。課題としては,毎年繰り返し学習に取り組める機会を設けてさらに理解を深めること,誰でも実践ができるように構造化をすることの2点が挙げられた。

【キー・ワード】特別支援学級,包括的性教育,生命の安全教育,知的障害,発達障害


臨床発達心理実践研究2024 第19巻 第1号 19-24

知的発達障害のある子をもつ保護者の性教育の意識

武子 愛
島根大学人間科学部福祉社会コース講師

保護者の知的障害のある子への性教育ニーズを検討するため,保護者が対象となっている性および性教育に関する論文をレビューした。結果,保護者は性教育には前向きであり,家庭で性教育を行いたいと考えているが実際に実施している家庭は少ないこと,性教育の内容は,身辺自立の一助となる身体の生理的な側面にニーズがあることが明らかになった。一方,性交や避妊,出産についてはニーズが低く,その背景として社会の受け皿がないことが考えられた。

【キー・ワード】知的障害のある子をもつ保護者,性教育,優生思想

臨床発達心理実践研究2024 第19巻 第1号 25-30


知的・発達障害のある人の性犯罪の現状と課題
――弁護・支援の現場から

山田 恵太
一般社団法人東京TSネット共同代表理事 弁護士/公認心理師・臨床心理士

知的・発達障害のある人の性犯罪について,実際の刑事事件の弁護・支援を行っている現場から,その現状を報告した。知的・発達障害のある人が性犯罪に至りやすいということではないものの,一定数の人が性犯罪に及んでいることは事実である。その背景には,①他者との関係性構築の困難さ,②こだわりや切替えの困難さ,③性的知識・経験の不足,④恋愛や性行為の経験の乏しさからくる劣等感,⑤自尊感情の低下などの要因があると考えられる。性犯罪に至らないですむ社会をつくっていくためには,特に①~④の点について,ライフステージに応じ,あらゆる場面で包括的性教育を実施していくことが必要不可欠である。

【キー・ワード】知的障害,発達障害,性犯罪,東京TS ネット,包括的性教育