臨床発達心理実践研究2023 第18巻 第2号 65-73

小児頭蓋咽頭腫に対する外科的治療を受けた高校生女子の支援から
――脳神経外科における心理検査を用いた医療支援を考える

小松華奈  藍原康雄  千葉謙太郎  川俣貴一
東京女子医科大学脳神経外科

頭蓋咽頭腫はトルコ鞍上部に発生する上皮性の良性腫瘍であり,手術で全摘出できても長期的に再発の可能性がある。また,視神経障害,認知機能障害,内分泌障害,視床下部障害など多くの合併症に悩まされるのもこの病気の特徴である。本邦では小児頭蓋咽頭腫患者における長期経過観察の報告は少なく,退院後の生活に対する心理支援を含めたfollow-up態勢は整っていない。そこで本研究では,頭蓋咽頭腫の診断を受けた高校生女子に対し,複数の神経心理検査を用いて支援策を立案し,学校と意見交換する場を設けることで病院と学校との連携,および退院後の生活を含めた長期follow-upを目指した医療支援を試みたので報告する。

【キー・ワード】小児頭蓋咽頭腫,高次脳機能評価,合併症,後遺症,復学支援


臨床発達心理実践研究2023 第18巻 第2号 74-85

里親に委託された子どもの実親に対する臨床発達支援のあり方に関する実践研究
――フォスタリングソーシャルワークにおける家族再統合支援からの考察

音山 裕宣
川崎市役所

里親委託された子どもの今後の見通しは,「保護者のもとへ復帰」が10.2%に留まっており,家族再統合に至らない事例が多数を占めている。その要因のひとつに,実親が「里親に子どもを奪われてしまう」などとの誤った認識を持ち,里親との協働に否定的な考えを抱くことが挙げられる。本稿では,筆者が児童福祉司として実践した里親委託事例における家族再統合支援について検証し,実親支援のあり方を考察した。その結果,「里親による代替養育」から「里親と実親による共同養育」に転換することは,家族再統合に向けた里親との相互作用による実親の「親」としての発達に資するのみではなく,子どもの人生の分断回避にも有効であることが示唆された。

【キー・ワード】実親,里親,共同養育,チーム協働養育,フォスタリングソーシャルワーク


臨床発達心理実践研究2023 第18巻 第2号 86-94

インターネット利用と生活の諸側面の関係に関する研究
――小学生対象の生活実態調査の結果から

小谷正登  木田重果  加島ゆう子  塩山利枝
関西学院大学 西宮市教育委員会 奈良女子大学附属中等教育学校 芦屋市立宮川小学校

岩崎久志  三宅靖子  下村明子  来栖清美
流通科学大学 姫路獨協大学 宝塚医療大学 大阪成蹊大学

白石大介
武庫川女子大学

本研究では,小学生対象の生活実態調査の結果を分析・考察して,インターネット利用の状況と心身の状態を含む生活の諸側面との関連を検討し,以下の2点を明らかにした。(1)ネット依存傾向の高さが,睡眠・食事・放課後の過ごし方,学校生活,情緒・感情・身体的側面,家族・他者との関係などの生活の諸側面と関連する。(2)ネット依存傾向が低い小学生ほど,メディアの使用時間が短く,就寝・起床時刻が早く,睡眠・食事の状態,学校生活,情緒・感情・身体的側面の状態,家族・他者との関係が良好である。以上から,小学生の心身の健康状態を維持する一方策として,適切なインターネット利用を中心とした生活臨床の有効性と可能性が示唆された。

【キー・ワード】 インターネット利用,生活の諸側面,小学生,心身の健康状態,生活臨床


臨床発達心理実践研究2023 第18巻 第2号 95-100

放課後等デイサービスの自由遊び場面におけるコミュニケーション行動支援
――買い物遊びへの好みの導入

伊藤貴大  森岡裕子
社会福祉法人どろんこ会 子ども発達支援センターつむぎ 浦和美園 社会福祉法人どろんこ会 Doronko Labo
社会福祉法人どろんこ会 Doronko Labo

矢ヶ崎紗千恵  大久保優介
社会福祉法人どろんこ会 Doronko Labo 社会福祉法人どろんこ会 Doronko Labo

本実践では,放課後等デイサービスを利用する小学生男児1 名に対し,自由遊び場面において生起した社会的遊びに好みの刺激を組みこむことで,コミュニケーション行動を促進することを目的に介入を実施した。社会的遊びは,ベースライン期の行動観察において遊びの参加が最も多く確認された買い物遊びが選定された。介入内容は先行子操作に基づき,対象児の好きなハンバーガーショップを物的環境調整として設定した。その結果,対象児の自発的なコミュニケーション行動は介入前に比べ生起数の増加が確認され,買い物遊び以外の場面においても生起が確認された。今後は小学校との連携を含めた他場面への般化を検討していく必要性が示唆された。

【キー・ワード】放課後等デイサービス,買い物遊び,先行子操作,コミュニケーション行動


臨床発達心理実践研究2023 第18巻 第2号 101-113

特別支援学校保護者相互支援の交流プログラムの効果
――横だけでなく縦にもつながった5年間の歩み

中島美那子  髙橋悠  安保里紗
茨城キリスト教大学 社会福祉法人山ゆり会まつやま百合ヶ丘保育園 茨城県立土浦特別支援学校

斎藤明奈  小坂部玲奈
水戸市立梅ヶ丘小学校 水戸市立千波小学校

特別支援学校へ通う子どもの保護者を対象に,学校を会場として月1回2時間の交流会を開催した。本研究ではノーバディーズ・パーフェクト・プログラムをベースとしたその交流プログラムの特徴を示し,あわせて開催から5年間の継続を経た中での効果について検討した。会の流れや参加者の発言などを記録したフィールドノーツおよびエピソードの分析から,本交流会が参加者の心理的安全性を保ち,参加者相互によって横だけではなく,むしろ縦のつながりを促進させることが示唆された。さらに継続の過程において会の企画・運営・進行主体が保護者へと移ったことにより,「自分たちが大切に守っていくもの」として会を捉えていることが分かった。

【キー・ワード】特別支援学校,ノーバディーズ・パーフェクト,ペアレント・メンター,障害のある子どもの保護者,保護者相互支援