臨床発達心理実践研究2023 第18巻 第1号 5-11

新型コロナ禍における子どもの依存症と家族支援

信田 さよ子
原宿カウンセリングセンター顧問

新型コロナ感染症の拡大は家族にも多大な影響を与えた。中でも女性の自殺率の上昇と子どものゲーム・ネット依存症はさまざまな臨床現場に間接的な影響を与えている。依存症臨床は精神科医療や心理療法の世界では長年少数派的な位置づけであった。開業心理相談機関における筆者の実践はアディクションアプローチを基本にしており,新規来談者の約三分の一を占める家族支援が大きな柱になっている。ゲーム・ネット依存の子どもに対しては依存症の抑制要因である家族関係の変化が重要である。愛情・見守りといった抽象的指針ではなく,セリフから変えていく行動変容によって依存行動が変わっていく。グループカウンセリングにおける親と子の境界を設定し距離をつくることが,問題解決につながるのである。

【キー・ワード】ゲーム・ネット依存症,アディクションアプローチ,抑制要因,開業心理相談機関,境界設定


臨床発達心理実践研究2023 第18巻 第1号 12-17

コロナ禍における依存症のある人の課題と支援
――アルコール依存を中心に

伊藤 満
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター

COVID-19の発生以前より本邦の飲酒量は減少傾向にあったが,一部ではパンデミック後に飲酒量が増加しており,孤独や不安などの心理的脆弱性が飲酒問題の悪化に影響しているようである。飲酒問題は当事者も家族も隠そうとしがちで,周囲が気づきにくい。暴言・暴力や虐待などの社会的問題の背景に,アルコール問題が潜んでいる可能性を疑う姿勢が必要となる。そして,アルコール問題への介入は,単に「酒をやめなさい」と伝えることで行われるものではない。不安からの回避や孤独感の穴埋めとして飲酒している側面があり,大量飲酒者から「なぜ酒を必要としているか」を語ってもらえる信頼関係を築くことが支援の第一歩になると思われる。

【キー・ワード】COVID-19,アルコール依存症,アルコール使用障害,多量飲酒,ブリーフインターベンション


臨床発達心理実践研究2023 第18巻 第1号 18-23

コロナ禍におけるひきこもり状態にある人の課題と支援

野中 俊介 境 泉洋
東京未来大学こども心理学部 宮崎大学教育学部

本研究においては,ひきこもり経験者の家族からみたCOVID-19による危機的状況(コロナ禍)での心理行動的影響を探索的に検討することを目的とし,ひきこもり経験者の家族を対象とした調査を行った。ひきこもり経験者の家族219名を対象とした分析の結果,コロナ禍前後において世帯年収の減少が示されたが,社会参加困難感に有意な差異は示されなかった。自由記述にもとづく知見を整理すると,コロナ禍前に外出がもともと少なかったケースにおいては特に大きな影響が見受けられなかったりポジティブな影響も示唆されたが,コロナ禍前に余暇活動ができていたり支援を受けていた場合にはネガティブな影響が示唆された。

【キー・ワード】ひきこもり,コロナ,家族,孤立


臨床発達心理実践研究2023 第18巻 第1号 24-29

教育・発達支援分野におけるICT 活用の有効性と課題
――ウィズ・コロナとウェルビーイングのために

水内 豊和
島根県立大学人間文化学部保育教育学科

特別支援教育や発達支援におけるICT活用の有効性と課題について,GIGAスクール構想やコロナ禍などの状況を踏まえて検討した。障害のある子どもの情報の入出力手段の代替,認知機能や記憶の補助・拡大においてICT活用の果たす役割は大きいが,そのためには個々の子どもの適切な実態把握が重要である。また教育や発達支援におけるデジタル化のデメリットの側面についても理解が必要である。その上で,プログラミング教育の可能性も含め,ICTだからこそ効果的な教育や発達支援についても述べた。最後に,Society5.0時代に求められる,ウェルビーイングを志向したICT活用のあり方について論じた。

【キー・ワード】ICT,ウェルビーイング,特別支援教育,発達支援,GIGAスクール構想


臨床発達心理実践研究2023 第18巻 第1号 30-40

コロナ禍におけるヤングケアラー問題

伊藤 嘉余子
大阪公立大学

COVID-19の感染拡大は,すべての家庭・世帯に平等に影響を与えたわけでなく,子ども虐待,DV,貧困など,コロナ禍前から支援が必要な困難を抱えていた世帯ほど大きな打撃を受けた。本稿では,その中で「ヤングケアラー」を取り上げ,ヤングケアラーの定義や実態についてまず紹介する。ヤングケアラーの実態から支援ニーズを踏まえ,日本におけるヤングケアラー支援の現状と課題について,ヤングケアラー支援の先進国といわれているイギリスとの比較から検討する。最後に,今後のヤングケアラー支援の課題と展望について,ACE(Adverse Childhood Experience)やPCE (Positive Childhood Experience)の研究から得られる示唆や,「ヤングケアラー」というラベリングを回避することの重要性を踏まえ「子どもが子どもらしく生活する権利の保障」という視点から考察するとともに,「家族が家族のケアを担うべき」という社会の価値観を変革する必要性について述べた。

【キー・ワード】ヤングケアラー,家族のケア,ヤングケアラー支援,子どもの権利,家族支援


臨床発達心理実践研究2023 第18巻 第1号 41-46

「対人関係と性」に課題のある青少年に向けたKeep Safe支援
―― Good Way Modelに基づいた特別支援学校での授業実践と臨床発達心理士の役割

堀江 まゆみ
白梅学園大学子ども学部

特別支援学校や地域で社会的トラブルや「対人関係と性」に課題を持つ子どもが増えている。そこで,特別支援学校で行った「性問題行動を示す知的障害・発達障害の青少年と保護者に向けたKeep Safeプログラム」の実践について取り上げた。「自分を語る」というナラティブ・アプローチを取り,知的・発達障害のある生徒などにも理解しやすいように開発されたGood Wayモデルが主な構成要素である。近年はトラウマ・インフォームド・ケアの視点が重要であり,直面化をさけ外在化から内在化のアプローチが工夫されている。知的・発達障害のある生徒などにもわかりやすいよう視覚的教材が多用されていることなどが特徴である。全国の特別支援学校や福祉実践で取り組まれている。

【キー・ワード】 知的・発達障害,社会的トラブル,Good Wayモデル,Good Livesモデル,トラウマ・インフォームド・ケア


臨床発達心理実践研究2023 第18巻 第1号 47-56

サポートブック「はーと」に関わる取組みとその成果
――保護者と支援者のアンケート調査結果から

新谷 紀子
子育て・発達サポートかもみーる
(前所属:河内長野市立子ども・子育て総合センターあいっく)

担当課を越えた連携のもと庁内外の機関が一体となって子どもの発達支援のためのサポートブック「はーと」を構成し,協力体制の中で保護者への記入支援を実施すると同時に,官民協働によるサポートブック「はーと」の活用促進を図ったことで有効な支援につながった河内長野市の取組みを紹介する。支援の有効性を実証するために「はーとの会」(市主催サポートブック記入支援の会)で実施したアンケートの調査結果では,「はーとの会」に参加したことにより,保護者は支援者や保護者同士のつながりに安心感を抱き子育てに自信が持てたこと,支援者はそれぞれの業務(児への発達支援・保護者支援)に対するモチベーションアップ,顔の見える連携の強化につながったことが示された。

【キー・ワード】サポートブック「はーと」,切れ目のない支援,保護者支援,担当課を越えた連携,官民協働