臨床発達心理実践研究2022 第17巻 第1号 5-10

コロナ禍による子どもたちの生活と関係性について

田中 康雄
医療法人社団倭会こころとそだちのクリニックむすびめ

2019年11月に中国武漢市周辺で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はわが国にも広がり,2022年2月現在,第6波のさなかにある。本論は,このCOVID-19下における子どもたちの生活を軸に検討する。基本となる生活としてマスク,手洗い,行動制限について述べ,次に子どもたちの生活の場である,保育園,幼稚園,学校,そして家庭について,現状と関わる者の様子,そして対応について考察する。最後に子どもたちの多様性を認め,かれらが示す対処行動を大切にしつつ,社会全体が責め合う関係性から,信頼と連帯に裏打ちされた継続する対話ができる社会を目指すことで,子どもたちに安心を届けることができるのではないかという希望を述べた。

【キー・ワード】新型コロナウイルス感染症(COVID-19),生活,関係性,安心,対話


臨床発達心理実践研究2022 第17巻 第1号 11-16

子育てをめぐる変容と子育て支援のこれから

坂上 裕子 常田 美穂
青山学院大学教育人間科学部 NPO法人わははネット

コロナ禍は子育てに大きな変化をもたらしたが,それは新しい現象として生起したわけではなく,コロナ禍以前から進行していた子育てのあり方の変容を,加速または深刻化させる形で顕現化させることとなった。本稿では,まず,過去20年ほどの子育ての状況と子育て支援制度の変化について振り返りつつ,日本の子育ての特徴や問題を論じた。次に,母親の育児行動や育児に対する意識の変化に関する調査研究の知見を,子育て支援者が捉えた今日の育児の実態を交えて紹介した。最後に,コロナ禍で登場した新たな子育て支援の形を紹介したうえで,これからの子育て支援のあり方について考察を行った。

【キー・ワード】子育ての変容,親の育ち,コロナ禍,子育て支援


臨床発達心理実践研究2022 第17巻 第1号 17-27

コロナ禍における子どもたちのメンタルヘルスの推移とその関連要因
――児童思春期を対象とする前向きコホート研究を用いた実証的見地から

足立 匡基
論文執筆時の所属:弘前大学医学部心理支援科学科・弘前大学医学研究科附属子どものこころの発達研究センター
現所属(論文掲載時):明治学院大学心理学部心理学科

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが発生する以前から継続的に実施していた児童思春期における前向きコホート研究のデータを用いて,コロナ禍における子どもたちの抑うつ症状得点の成長軌跡パターンとその関連要因を検証した。結果として,抑うつ症状の成長軌跡には,「改善群」「悪化群」「低維持群」の3つの成長軌跡パターンが存在することが示され,82.7%の児が「低維持群」に分類されたことから,逆境的環境下においても多くの児が心の健康を維持して生活している様子が窺えた。一方で,8.8%の児が「悪化群」に分類され,性別(女児),パンデミック以前における日常生活の困難感,パンデミック下におけるスマホ・タブレットの使用時間の増加が,そのリスク因子であることが示された。

【キー・ワード】新型コロナウイルス感染症2019,児童思春期,抑うつ症状,縦断研究,潜在クラス成長分析


臨床発達心理実践研究2022 第17巻 第1号 28-35

知的障害の若者と大学生がともに学ぶインクルーシブ生涯学習プログラムの試み
――コロナ禍における関係性支援の可能性と課題

日戸 由刈
相模女子大学人間社会学部人間心理学科

2020年度よりコロナ禍の中で開始となった,知的障害の若者と大学生がともに学ぶためのインクルーシブ・ゼミ,インクルーシブ・セミナー,インクルーシブ・リサーチの3つの活動経過をふり返り,オンラインおよび対面で行う関係性支援の可能性と課題を述べる。3つの活動は階層的に位置付けられ,障害当事者による後進へのエンパワメントと啓発の循環,およびセルフ・アドボカシーを可能とすることを最終的なねらいとしている。いずれの活動もコロナ禍のためオンライン開催となったが,導入段階の「セミナー」への初めての参加者を募る際,オンライン開催は予想以上の障壁となった。一方,次の発展段階に位置する,クローズドで親密な関係性による「ゼミ」では,発言や役割交替のタイミングなどのわかりやすさという,オンラインならではのコミュニケーション上のメリットにより,参加者は互いに励まし合い,会話を楽しんでいた。そして,最終段階の「リサーチ」においては,オンライン開催では十分な満足が得られず,クローズドな関係性のもとメンバーシップを築き,維持するために,参加者たちは対面での活動を強く望むようになった。

【キー・ワード】知的障害,青年期,インクルーシブ,生涯学習


臨床発達心理実践研究2022 第17巻 第1号 36-42

双方向オンラインシステム導入による関係性支援の可能性と課題
――自閉スペクトラム症児の保護者を対象としたオンラインによるペアレント・プログラムの実際

東 敦子 黒田 美保
帝京大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程 帝京大学

コロナ禍における自閉スペクトラム症を含む発達障害児や保護者への支援の必要性が高まっている現在,直接対面や参集を必要としない双方向オンライン通信システムを利用した支援への期待が高まっている。本研究では,これまで対面で行われてきたペアレント・プログラムをオンラインで実施した実践について報告する。保護者への事後アンケートから,講義内容の理解度が高かったことや,同じ立場の保護者同士の交流の機会として非常に満足していたという結果が得られた。オンラインのメリットについては,移動を必要としないという経済性の高さや,専門的支援の地域均霑化など,発達支援におけるパラダイム変換につながる大きな可能性が示唆された。デメリットに関しては,プログラム外の保護者同士の交流の機会が得にくいことが挙げられており,プログラム参加後の保護者同士の仲間づくりの継続性という点での課題が明らかとなった。

【キー・ワード】自閉スペクトラム症,オンラインシステム,ペアレント・プログラム,保護者の関係づくり,コロナ禍


臨床発達心理実践研究2022 第17巻 第1号 43-50

自閉症スペクトラム成人男性の11年間の支援から
――関係性支援によって人は発達する

坂本 佳代子
坂本福祉相談事務所

筆者は自身の運営する独立型社会福祉士事務所で,様々に生きづらさを抱える人々の支援を実践してきている。その中で成年後見人としての業務は少なくないのであるが,今回はその一例についての実践経過報告を行う。本事例(以後,本人)は当初アスペルガー症候群と診断され,筆者を含め誰しもがその認識を持って関わってきていた。本人は対人関係を継続することに困難さがあり,両親以外で11年間関わり続けてこられたのは,本人の人生の中で筆者のみである。この関係継続があったからこそ,本人がDV家庭で育ち,且つ両親から身体的・心理的虐待を受けてきたことを筆者に語ることができた。その内容を共有してからの本人の変化には目を見張るものがあり,本人も気持ちが楽になってきたと言い始めている。ここでは,自閉症と診断された50 歳代であっても,関わりによって,人は発達していくという実践報告を行う。

【キー・ワード】成年後見制度,関係継続,共感,被虐待,ネットワーク


臨床発達心理実践研究2022 第17巻 第1号 51-60

障害児通園施設における療育者の困難感に関する研究
――計量テキスト分析による分析から

板川 知央 横畑 泰希
株式会社EP綜合 東京未来大学

本研究は療育者に対して自由記述のアンケート調査を実施し,KH Coder(樋口, 2004)による分析を通して彼らが抱える支援の困難感を明らかにすることを目的として行った。分析の結果,「難しい」「悩む」「困る」の3つの語が頻出語上位60語以内に含まれていた。また,それぞれの困難感と語の関係性についての分析では,「療育」「学校」「個別支援計画」などの療育に関わる特徴語が一覧で示された。さらに,それらの関係を視覚的に示した図では,それぞれの困難感における特徴語に重なりが見られた。これらのことから,療育者の困難感は広範に渡っているとともに,独立したものではなく,相互に影響を与え合っていることが考えられた。

【キー・ワード】療育者,困難感,KH Coder