臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第1号 5-11
コロナ禍における子育て上の問題と発達支援の実際
恩田 智史
発達支援ルーム にこっと
本稿ではコロナ禍において一事業所が取り組んできた乳幼児の発達支援についての実践を報告する。具体的には緊急事態宣言下で自粛生活を余儀なくされた利用児やその保護者への支援として実施した電話相談・Web 療育における支援や実践のエピソードについて振り返った。その中で見えてきた,子どもの言動の変化や保護者が感じるストレスの要因,Web療育における子どもの集中の持続や非言語的応答・達成感の共有の難しさ等について,神経発達症と判断される子どもたちの障害や発達段階の特徴,およびそこから生じる発達の偏り等との関連性から考察した。
【キー・ワード】乳幼児,神経発達症,発達支援,コロナ禍,Web 療育
臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第1号 12-18
幼稚園・学童保育所におけるコロナ禍の影響と子どもたちの発達
古屋喜美代 田坂裕子
神奈川大学 鶴見大学短期大学部
新型コロナウイルス感染症により,2020年3月に幼稚園は休園,学童保育所は規模を縮小して運営し,同年6月から本格的保育・育成が再開された。感染予防の新しい生活様式の定着のため,物理的心理的に大きな負担を抱えながら保育にあたった。幼稚園では新入園児に関する保育者,保護者の心配が大きかった。発達相談では,集団生活開始の遅れによるのか,発達の問題があるのか,子ども理解への支援が必要であった。学童保育所では,感染予防のために分担・協力し合う生活場面や仲間づくり活動が難しくなった。職員へのコンサルテーションを通して,職員が協働して育成における優先課題や育成の観点を見直すことをファシリテートすることが重要であった。
【キー・ワード】新型コロナウイルス感染症,幼稚園,学童保育所,発達相談,コンサルテーション
臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第1号 19-24
コロナ禍における子どもたちと発達支援
冨永 由紀子
栃木県日光市立大桑小学校
今まで経験したことがないコロナ禍において,小学校に通う子どもたちの心と体にはどのような影響があったのだろうか。学校休業が明けて学校が再開されたものの,子どもたちが思い描いていたような今まで通りの学校とはかけ離れた学校生活となった。3密(密閉・密集・密接)を避けるための学習環境や学習方法,友達との距離感のとり方などに戸惑う様子が多々見られた。また,学校行事等もコロナウイルス感染拡大防止のための措置が取られ,縮小・中止・延期を余儀なくされた。そのような中で,不適応を起こしたたり,レジリエンスが減少したりした例をあげ,子どもたちの健やかな成長・発達を促すためにどのような実践をしてきたかについて言及する。個々のケースへの対応ではなく,長期的な発達段階にある小学生全体の様子を俯瞰した形式でまとめることとした。
【キー・ワード】小学校,3密(密閉・密集・密接),不適応,レジリエンス
臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第1号 25-30
特別支援学校における新型コロナ禍の授業と子どもたちの発達支援
若井 広太郎
筑波大学附属大塚特別支援学校
コロナ禍における,子どもたちの生活や学習環境で,大きく変化をしたことの一つとして,オンラインによる遠隔的な学習が挙げられる。知的障害特別支援学校におけるオンラインによる遠隔的な学習の実践として,Zoom(オンライン会議ソフト)を活用したリアルタイム遠隔授業を行った。幼稚部におけるオンラインあつまりの実践を通して,参加者や画面への注目,行為の模倣,教材の操作といった幼児の参加度が高まった一方で,視線や情動の共有経験などにおける制約もあった。今後,オンライン学習の長所と短所を知った上で,対面学習等との効果的な組み合わせを検討する必要性が示された。
【キー・ワード】特別支援学校,オンライン授業,新しい生活様式
臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第1号 31-38
大学におけるコロナ禍の影響
――発達障害学生支援に係わる課題
西村 優紀美
富山大学
大学では,「新型コロナウイルス感染症」の状況を踏まえ,学内立ち入り禁止,前期の授業は遠隔(オンライン)での実施となった。環境の変化への対応が難しく,新奇なことがらに適応することが難しい発達障害学生にとって,在宅での遠隔授業の受講など,修学環境の変化は大きなストレスとなった。本稿では,新型コロナウイルスの感染拡大に伴うある大学の対応と障害学生支援を担う支援室の対応を振り返りながら,自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症の特性がある発達障害の学生が,このような状況下で受けた影響について整理し,今後の発達障害のある学生の理解及び緊急時の支援につい
て言及したい。
【キー・ワード】障害学生支援,発達障害,オンライン授業,感染症対応,併存症
臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第1号 39-43
高齢者施設におけるコロナ禍の影響と臨床発達支援
千草 篤麿
特別養護老人ホーム報徳園
新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言により,高齢者施設の入所者は社会との交流が閉ざされ,家族や友人と会うことも制限されるようになった。また,施設内で感染者が出た場合には,さらに制限が加わり,入所者だけではなく,職員の心理的負担も増大することとなる。特別養護老人ホームA園では職員が新型コロナウイルスに感染し、濃厚接触者となった入所者と職員がPCR 検査を受けた。その間とその後の職員の心理的ストレスや入所者の認知症状の変化について概要を報告し,高齢者施設における臨床発達支援について検討する。
【キー・ワード】高齢者,認知症,BPSD,コロナウイルス,特別養護老人ホーム
臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第1号 44-52
COVID-19下においてプログラムとしてのStorytimeを配信し続けたNYC公共図書館員の子どもの育ちに関する認識について
石川 由美子
宇都宮大学共同教育学部/地域創生科学研究科
本研究は,2020年1月ごろから猛威をふるいはじめたCOVID-19によるNYC 市民の生活自粛の中,現在に至るまでStorytime をネット上から配信し続けるStorytime実施者(NYC公共図書館員とDrag Queen)のStorytimeの認識を子どもの育ちの観点から検討した。2019年のStorytime実施者へのインタビューを記述データとして探索的な分析を加えることで,Storytimeのプログラム要素がStorytime実施者の子どもの育ちに対する一貫した認識となっていることが示唆される結果となった。Storytime実施者が一貫して配信を続ける強い意志は,移民が多い文化的背景で,子どもの育ちを担う公共図書館員の専門性の高さと気概を示すものと考えられた。
【キー・ワード】高齢者,認知症,BPSD,コロナウイルス,特別養護老人ホーム
臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第1号 53-63
特別支援学校のセンター的機能を活かした小学校知的障害特別支援学級における「授業づくりコンサルテーション」の実践
森澤亮介 佐藤義竹 堂山亞希
筑波大学附属大塚特別支援学校 筑波大学附属大塚特別支援学校 目白大学人間学部子ども学科
本研究では,小学校知的障害特別支援学級教諭と特別支援教育コーディネーターとが協働した「授業づくりコンサルテーション」の有効性を検討した。授業場面における児童の行動変容の分析とコンサルテーションに基づく担任教諭の関わりの変化についてエピソード分析を行った。その結果,コンサルティの児童の実態把握や関わり方,授業における手立ての内容について変化が見られ,コンサルティも自身の関わりの変化に実感を持つことができた。「授業づくりコンサルテーション」が,特別支援学級教諭の児童の授業参加につながる行動観察による実態把握と興味関心を基にした教材や手立ての準備といった専門性の向上に一定の有効性があることが示唆された。
【キー・ワード】知的障害,センター的機能,小学校特別支援学級,授業づくり,コンサルテーション