臨床発達心理実践研究2020 第15巻 第2号 57-67

自閉スペクトラム症児童を対象とした概数の理解にもとづく買い物学習の実践
――数直線を用いた課題による検討

宮寺千恵  石出春陽
千葉大学教育学部  江東区立平久小学校

本研究は,加減算に困難を示す自閉スペクトラム症の児童1名を対象とし,概数の学習を踏まえた買い物学習を実施することで,対価の支払いができることを目的とした。概数の学習では,視覚的な情報処理に長けている対象児童に対して数直線を活用し,その効果を検証した。個別学習は全6回行った。第1回~第4回の学習では数直線を用いて概数のルールを学習した結果,おつりのある買い物学習では正答率が上がった。第5回~第6回では,実際の買い物場面において支払い行動を学習した。学習終了後の振り返りでは自信を持って買い物に行けると答えており,概数を理解して支払いを行うことを目標とした指導の成果が認められた。

【キー・ワード】自閉スペクトラム症,概数,買い物学習,数直線


臨床発達心理実践研究2020 第15巻 第2号 68-76

児童期における「気になる」子どもの行動特徴と情動発達との関連

本郷一夫  平川久美子  飯島典子
AFL発達支援研究所 石巻専修大学人間学部  宮城教育大学教育学部

高橋千枝  相澤雅文
東北学院大学文学部  京都教育大学総合教育臨床センター

本研究では,児童期における「気になる」子どもの行動特徴と情動発達との関連を明らかにすることを目的として,小学校1~6年生の「気になる」子ども1071名の行動特徴と情動発達について担任に評定してもらった。その結果,〈表情による表現〉〈言葉による表現〉では行動統制の困難さ傾向が高い群の得点が高く,〈抑制〉では行動統制の困難さ傾向が低い群の得点が高かった。また,〈理解〉〈共感〉では行動統制の困難さ傾向とコミュニケーションの困難さ傾向が共に低い群の得点が高かった。この結果から,情動の表現や抑制だけでなく,その背景にある情動理解と共感を考慮した「気になる」子どもの理解と支援が重要であることが示唆された。

【キー・ワード】「気になる」子ども,児童,情動発達,行動統制の困難さ傾向,コミュニケーションの困難さ傾向


臨床発達心理実践研究2020 第15巻 第2号 77-85

児童同士の賞賛が行動変化と学校適応感に及ぼす効果

大石幸二  浅利真梨奈
立教大学現代心理学部  東京都荒川区子ども家庭総合センター

和田恵  永川千夏
立教大学大学院現代心理学研究科  立教大学現代心理学部

本研究では,他者を賞賛する報告活動を学級全体で行うと,児童の否定的な行動が減り,学級の居心地が良くなり,学校適応感が高まると仮説を立てた。ある学級(実践群)で報告活動を行い児童の否定的な行動の減弱を行動観察より確認し,児童の学校適応感を他の3学級(統制群)とHyper-QUを用いて評価した。行動観察より「授業の妨げ」「乱暴」の生起頻度は減少した。「援助」は増加したが維持しなかった。学校適応感は,実践群で「被侵害」得点に下降傾向が,ソーシャルスキルの「関
わり」得点に上昇傾向が見られた。この結果から,児童同士の賞賛が否定的な行動を減弱し,侵害を被ると認知する児童を減らして,学校適応感を高める可能性が考えられた。

【キー・ワード】児童,賞賛,前向きな報告,学校適応感


臨床発達心理実践研究2020 第15巻 第2号 86-95

わらべうたの臨床発達心理学的意味の再考

湯澤 美紀
ノートルダム清心女子大学

本稿は,わらべうたに関する資料や研究を発達心理学的視点から整理・分析することで,わらべうたの価値を再発見し,子どもが健やかに育つための環境の一つとして,わらべうたを介した温かな触れ合いの機会を提案していくことを目的とした。まず,わらべうたの定義を整理したうえで,音楽的特徴ならびに遊びとしての特徴を整理した。結果,音楽に関しては,民謡のテトラコルドならびに身体感覚を伴う拍感をその特徴とした。そして,遊びとしての特徴は,遊びの自在性ならびに日常の中の非日常性をその特徴とした。また,わらべうたの実践の概要を紹介したのち,療育や子育て支援に携わる大人もまた,わらべうたを通した多様な体験を重ねていくことで,その専門性を醸成しうる点を指摘した。最後に,わらべうたを通した子どもの育ちの姿を,響き合う身体を核としながら,周辺領域として情動の育ち,言葉の育ち,音楽の育ちとしてまとめ,それらを概念図としてまとめた。

【キー・ワード】わらべうた,子育て支援,療育,子どもの育ち,発達心理学