臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第2号 71-80

大学生を対象とした家庭参入型乳幼児ふれあい体験への参加が母親にもたらした効果

小島康生  田渕恵  渡部千世子  長谷川有香  冨貴田智子
中京大学  安田女子大学  鈴鹿医療科学大学  東京福祉大学短期大学部  愛知江南短期大学

半年にわたり大学生が同一家庭を訪問する「子育てサポーター」の取り組みにおいて,母親が本活動への参加から何を得たか,どのようなことを感じたかを分析した。終了後に送られてきたメールの分析から,1.母親自身の利益,2.世代性,3.子ども/学生の育ち・変化への気づき,4.学生との関係継続の希望,の大きく4つのカテゴリーが抽出された。下位カテゴリーをみると,「比較的シンプルな肯定的感情(楽しかった)」「学生の育ちへの貢献(役に立った)」「学生による道具的サポート(助かった)」の3つが多かった。共起ネットワーク分析からは,学生からの精神的なサポートが肯定的感情につながるのと同時に,さらなる世代性の喚起・増進につながる可能性も示唆された。

【キー・ワード】乳幼児ふれあい体験,大学生,家庭への参入,母親への効果,世代性


臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第2号 81-93

特別な支援が必要な児の保育とその保護者との関わりを保育者が見直すための支援
――保育者と保護者の対話が困難なケースにおいて心理相談員が介入した事例

村上 涼
江戸川大学 メディアコミュニケーション学部 こどもコミュニケーション学科

本研究では,保育者と保護者との対話が困難なケースにおいて,心理相談員の支援によって,保育者の対象児の保育と保護者に対する関わり方に変化が生じるのかについて検討した。その結果,保育者に次の4つの変容が認められた。①保育者が保育に専念できるようになり,保育者の認知が「対象児の保育は不可能」から「対象児の保育は可能」に変容した。 ②保育者が,保護者の「A児のための行動」を認め,理解するようになった。 ③保育者の焦りや不安が,保護者に対する直接的な言動に向かうことを防ぐことにつながった 。④保育者が,対象児への具体的な支援方法を理解したことにより,継続して当該園で保育し,卒園まで在園することにつながった。このような結果から,保育者と保護者との対話が困難なケースにおいて心理相談員が支援者として関わることが,保育の改善と保護者との関係の改善に有効であることが示唆された。

【キー・ワード】保護者と保育者の橋渡し,直接介入,特別な支援が必要な児の保育,心理相談員


臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第2号 94-108

感覚特性をもつ自閉症スペクトラム児の集団療育における行動変容

山口佳代子  三山岳
特定非営利活動法人MOVE こどもセンターひかりの子  愛知県立大学

本研究は,療育施設に通う感覚特性をもつ自閉症スペクトラム児の行動の変容プロセスを明らかにし,集団療育での支援のあり方について検討することを目的としている。日本版感覚プロファイル短縮版(Short Sensory Profile:SSP)により,感覚処理能力に特性があるとされた5歳から8歳の自閉症スペクトラム児10名を対象に,自由遊びや集団活動の様子,支援員がかかわった事例記録を,M-GTAによって分析し,その行動の変容を結果図にした。その結果,感覚特性に直接起因する行動や,ASD児特有の認知の偏りや人との関係性によって起こる行動変容がみられ,自主的な集団参加への変容に至るためには,情緒と感覚の安定が不可欠で,療育技法だけではない他者からの肯定的で良好な関係性が重要であることが示された。

【キー・ワード】自閉症スペクトラム児,感覚特性,M-GTA,集団療育,児童発達支援


臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第2号 109-118

自閉症スペクトラム障害のある幼児の養育者を対象とした心理教育プログラムの効果

竹澤大史  成瀬朋子
和歌山大学大学院  愛知県医療療育総合センター・中央病院
小松則登  加藤智浩
愛知県医療療育総合センター・中央病院  愛知県医療療育総合センター・中央病院
小﨑祐美子  長谷川桜子
愛知県医療療育総合センター・療育支援センター  愛知県医療療育総合センター・発達障害研究所
吉川 徹
愛知県医療療育総合センター・中央病院

自閉症スペクトラム障害(ASD)圏の診断を受けた幼児の養育者を対象に,小集団による講義形式の心理教育プログラムを実施した。研究参加者は,21名(男2名,女19名)で平均年齢が35.62 歳であった。ASDとその関連領域に関する講義と質疑応答によるセッションを,約3か月間に計6 セッション実施した。プログラムの効果を検証するため,開始時と終了時に参加者の育児ストレスと抑うつ感を測定し,その変化を調べた。プログラムの終了時に,参加者の抑うつ感が軽減される傾向がみられた。参加者の満足度やプログラムの効果に関する評価は概ね良好であった。参加者の育児ストレスと抑うつ感に影響を及ぼす要因についての考察を通し,心理教育プログラムの今後の課題について検討した。

【キー・ワード】自閉症スペクトラム障害,養育者,心理教育,育児ストレス,抑うつ感


臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第2号 119-130

MSPAを活用した中学校から高等学校への移行支援

鈴木 英太
京都府向日市立寺戸中学校

幼少期から就労までのライフステージを通した支援が求められる中,中学校においても高等学校への途切れのない,スムーズな移行支援の在り方が模索されている。Multi-dimensional Scale for PDD and ADHD(発達障害の要支援度評価尺度:以下,MSPA)は発達障害に関する14 項目の特性の強弱を評価し,支援につなげるためのツールである。本研究では
MSPA を活用した2年間の実践事例を基に,中学校における支援の在り方について考察した。その結果 ① MSPAのアセスメント結果による「MSPAのレーダーチャート」「発達特性と環境の切り分け」「ライフステージを見通した支援」の視点 ②中学校期における自己理解を深める支援の重要性 ③中学校から高等学校への移行支援の在り方が示された。

【キー・ワード】中学校,高等学校,自己理解,移行支援,MSPA


臨床発達心理実践研究2021 第16巻 第2号 131-137

ひきこもり当事者への認知行動療法プログラムの効果の検討
――面接相談との並行

荒谷 純子
明治学院大学心理臨床センター

本研究では,ひきこもりの状態にあった発達障害や社交不安障害を持つ青年を対象に,不安に対する認知行動療法プログラムを実施し,その効果と,今後に向けてプログラムの定期的な導入について検討した。筆者が所属する不登校・ひきこもりの相談を対象にしている行政相談機関の利用者20歳から29歳までの計7名を対象とした。プログラム実施前後にSTAIを実施した結果,実施後では,“不安状態”の得点が有意に下がっていた。また,認知行動療法プログラムの実施期間中に,個別面接を並行実施し,面接でもプログラム内容を扱うことで,より認知行動療法の動機付けに繫がったと考えられた。

【キー・ワード】ひきこもり,不安,発達障害,認知行動療法